今時でもそうなのか、少なくとも筆者が小学生だったころは、
風邪などで休んだ児童の分の
給食のパンやカップに入ったゼリーの類は、
プリントの類や連絡事項と一緒に、
家が近所の子が持って行ってやったものである。
でもでも、
お昼までという低学年に、
寄り道に通じるお使いさせるのって、
納得させられるのかが疑問だろうと思うし。
はたまた、
少し大きくなった学年ともなりゃ、
ほぼ毎日午後の授業があるんだもの、
パンなんて 冬場だと水気があっと言う間になくなって、
ばさばさのがっちがちになっちゃうのに届けられてもねぇ?
“だよなぁ。”
俺もそういうのは縁がなかったなぁと、
そちらさんの場合はあんまり休んだ覚えがないからだろう、
ひょこりと小首を傾げつつ。
通い慣れた道をテクテクと、
バスケットシューズに似せた、
実は足首までのショートブーツを小粋に魅せる、
ほっそりしているがバネもあるぞと忍ばせる、
子鹿のような御々脚で、
舗道のアスファルトを蹴り出しながら。
本場フランスのファッションモデルばりに、
そりゃあ切れのいい足取りで進んでいるのは誰あろう、
「こんにちは〜。」
「あら、ヒル魔くん。こんにちは。」
あっさりと辿り着いたお宅のお母様に先を越されました。(笑)
大人の女の人へは漏れ無くネコをかぶるのが習慣の、
当家の坊やと同じクラスのお友達、蛭魔妖一くんでございまし。
軽やかな金髪に金茶の双眸をし、
ちょっと力みがあっての凛と張った目許が印象的で、
小顔とのバランスも程よい、すんなりした四肢がまた、
お人形さんのように可愛らしい風貌をより際立たせており。
モデルさんとか子役とかじゃないのかと
居合わせた大人をときめかせている罪な彼だが、
『残念でした。今は忙しいんで、
桜庭のお兄ちゃんの
カレンダー撮影のお供くらいしかやってません。』
どこでだったか熟年女性らに訊かれ、
うふふvvと可愛子ぶり、つつそんなお返事をしていた彼で。
……いや、それは今は関係ないんですが。
大人の女性には、
ついつい条件反射で猫をかぶる習慣がついている妖一くん。
こちらのお母様へも、
「セナくんへ、プリントとみかんのゼリー持って来ましたぁ。」
いちいち“えっとぉ”というのを混ぜるほどの
白々しい“ぶり子”は よしたものの。
ちょっぴり語尾を延ばす口調になると、
それは子供らしい話しようになるというのをわざわざの意識し、
しかも甘いお声での話しかけにしたものだから。
「あらあら、ありがとうございます。」
小早川さんチのお母様、
自分チの坊やだって、ほんわりふわふかに愛らしいっていうのに、
しかもそちらさんは紛れもない“天然もの”なのに。
実体は悪魔様な妖一くんに、こうもあっさりたぶらかされているなんて。
ダメよー、その子の“いい子”は嘘んこなのよ、お母様。
“うっせぇぞ、外野。”
ひぃよぇぇ〜〜……という冗談はさておき。(まったくだ)
「学校の方はどう? まだまだ風邪で休む子は多そう?」
そう、こちらのセナくん、風を拾って学校を休んでおいでなのであり。
彼らの通う学校でも、
ご多分に漏れずの学級閉鎖がちらほら出ていて、
「うん。ウチのクラスも、まだ休んでる子が8人から減りません。」
ただまあ、その全部が“風邪”を引いた子で、
インフルエンザだという子は皆無なので、
先生がたも今のところは緊急事態の手前くらいかなと構えておいで。
寒さの底も越えたということなので、
最悪のそれ“学校閉鎖”という恐れは無さそうとのこと。
そんな会話を玄関先で交わしておれば、
「あ、ヒル魔くんだ。」
お廊下の向こうから、少々鼻にかかったそんな声がし、
ありゃりゃあとお母様が肩を落としたのも無理はなく。
せっかく来てくれた小さなお客様を、なのに上がってもらわないでいたのにね。
今はまだ元気な坊やへと、お風邪を感染(うつ)させては申し訳がないからで。
だっていうのにまあ、
「ガッコ終わったの? 今日のたいく、なんだった?」
一応は暖かそうなカーディガンを羽織っちゃあいるが、
片側のお手々にコンパクトタイプのゲーム機を持ってる辺り、
少なくとも今は大人しく養生してたんじゃあなさそうで。
「セナくん。いい子で寝てなさいって言ったでしょうが。」
だってぇと口許を尖らせるのは、寝飽きて退屈していたからだろう。
それだけ元気になったなら重畳ではあるものの、
「お母さんの言う通りだぞ?」
大きめのスカジャンに、
大人みたいな薄手のストールマフラーを襟元へ結んだ、
なかなかに小じゃれた姿のお友達まで、
「ちょっと治ったくらいで油断すると、
すぐに咳とか熱とか ぶり返すんだからな。」
メッとお叱りのお顔をして見せれば、
パジャマにカーディガンという恰好だった小さなセナくん、
ぱたた…と駆けて来たコースを途中で斜めに逸らし、
あややぁと鼻白むと ママのお背の陰へくっついてしまったほど。
そこへ、
「ほらご覧なさい。」
ママさんの畳み掛けもあり、
ふややんと肩を落とした風邪ひき坊やも観念したか、
回れ右するとお部屋へすごすごと戻ってゆく模様。
それを苦笑交じりに見送りながら、
「熱が出なかったのは良かったのだけれど、
昨日まで体のあちこちが痛かったらしくってね。」
咳き込むから喉も痛い、お鼻が詰まるからよく寝られないって、
そりゃあ大変そうだったのが、やっと持ち直したもんだから、
「もう元気も同然って思っちゃうもんなのかしらね。」
ご飯ももりもり食べられるようになったし、
明日はガッコ行くんだなんて言っててねと。
甘えん坊だった一人息子がなかなかに頼もしくなったのが嬉しいような、
でもでも、それは無理というものよねぇと苦笑が絶えないような。
そんな複雑な気分でおいでだったお母様だったようであり。
「ヒル魔くんは、あんまり熱とかには縁がないの?」
「うん。」
素直にこっくりこと頷いて、
「でも、セナも幼稚園のころに比べたら休むのは減ったよね。」
何たってそのくらいからのお付き合いだからと、
ちゃんと覚えていてくれた優しい子なのへ、
ええと殊更に微笑って頷いたお母さん。
「あれでも随分と丈夫になったし、あの風邪だってね?」
何を思い出したやら、途中でまずは自分で吹き出しかかってから、
「進さんにもらった風邪だから、治すの勿体ないだなんて。
そんな言い方するのよ、あの子。」
「……………はい?」
あの丈夫そうな進さんが、そうそう風邪なんて引くはずないのにね、
くしゅんてしたの、それからセナも風邪気味になったから、
進さんのが感染ったんだよって。
「誰に聞いたか、人へ感染したら治るっていうのを知ってたみたいで、
だったら進さんは治ってるよねぇって喜んでるし。」
あんな小さいうちからもう惚気なんて言うんだものと、
そちら様こそ、小学生の坊やを掴まえて“惚気”なんて解釈が出るとは、
“…いやまあ、そこは判らんではないけどな。”
それはそれは懐いているセナ坊なのは違(たが)えようのないこと。
ただ、妖一くんにも“ありゃまあ”と感じさせたのは、
“あのお不動さんが風邪だとぉ?”
人間だもの拾うかもと、そこはまま一歩引いたとして。
“あの進に取り憑くような風邪だったらば。”
そんなおっかないのが、
あんな可憐な坊やに感染して無事でいられるもんだろかと。
そういう順番で“う〜ん”なんて、
この賢い坊やへ思わせてしまう進さんのお人柄。
今更ですが、恐るべし………。
〜どさくさ・どとはらい〜 12.02.26.
*どんな〆めですかというお話ですいません。(笑)
昨年も1月最初のお話で風邪を引いてるセナくんで。
わたしの拾ってるペースに合わせさせてます、はい。
そのうち、進さんから呼び出しを食いそうで、
それもおっかない今日このごろです。
めーるふぉーむvv
**

|